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山口二郎・政権交代とは何だったのか

政権交代とは何だったのか (岩波新書)

政権交代とは何だったのか (岩波新書)

2009年からの民主党政権の功罪を分析しています。


2009年の民主党への政権交代は,1993年前後からの政治改革の一つの到達点と位置づけられ,また政権交代による政治構造や政策の転換への期待が高まりました。しかしその後の民主党政権は当初の期待通りには進まず,二大政党ひいては政治そのものに対する期待が日増しに低くなっている感じさえします。本書は,これまでも民主党寄りの姿勢を明確にしてきた著者が,しかし民主党の政策や政策決定について忌憚なく批判を行っている興味深い内容となっています。
例えば,鳩山政権における政策決定の問題点として第一に指摘しているのは,全予算見直しの政治主導による実現です。とくに執行途中であった2009年度予算の見直しと補正予算の提出を事務方に任せずに行ったことで,重要事項とルーティンワークの区別がなくなり,政策決定が停滞したことを問題として指摘しています(本書・9頁)。また菅政権,とくに震災後の政権の対応については,震災復興に際して与党経験が浅い民主党は市町村長の声を政策につなぐ経験・技術をもっておらず,そのために復興ビジョンの具体化ができていないこと(本書・22頁),原発事故については十分な情報提供が行われず,周辺住民避難についても政府の手持ちの資源の範囲内で対策を立てる方向に走ったこと(本書・25頁)を厳しく批判しています。他方で,原発に代わるエネルギー源の模索が,日本社会に街頭における民主主義の種をまいた点は評価しています(本書・28頁)。以上の民主党政権の軌跡から,著者は一方では政策決定過程の多元化をもたらした点を評価しつつ,他方で民主党アイデンティティが「政権交代」そのものであったことから,実体レベルでの政策転換の理念が十分煮詰まっておらず,いわば「方便政党」としての限界が露呈しているとしています(本書・49頁)。
本書は引き続き,政治主導がなぜうまくいかなかったのかの分析を行っています。一つには官僚と政務三役の役割分担がうまくいかず,政策形成が停滞したこと,二つには事務次官会議の廃止や国家戦略局の府設置が内閣の総合調整機能を損なったこと,三つには政府与党一元化が失敗したことをその要因としてあげています。特に政調会と事前審査の廃止が政務三役とそれ以外の大多数の国会議員との間に巨大な落差を生んだ点を重く見ています(本書・84頁)。そしてここでも,政治主導について誰が主導するかではなく何を主導するかという点が空白だったところに誤りの根源があったとします(本書・100頁)。
こうした分析を踏まえて,本書の第3章では,具体的な政策転換の事例を検討しています。うまくいった例としてあげられているのは寄付税制・生活保護・障害者福祉,失敗した例としてあげられているのは温暖化対策税制・年金問題・沖縄基地問題です。本書はさらに,政権交代後の政党政治のあり方の問題,政治改革に対する政治学の役割と筆を進め,現在の危機(震災・官僚主義・民主主義への懐疑とローカルポピュリズム)の問題を論じます。処方箋として本書が提示しているのは,政策理念の中身についての議論を成熟させることとと,市民としての能動性を発揮することです(本書・236頁)。
新書というサイズながら,本書が提示している問題点は非常に広範です。他方で,行政組織法の要素に関する分析や,政権交代後の立法に特徴的な立法過程と政策手段の検討など,行政法学からアプローチすべき課題も豊富に存在していることを改めて認識させられました。